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           「招福巻」に見る商標管理の難しさ


 「招福巻」を巡る商標訴訟。
商標登録している大阪の老舗すし店「小鯛雀鮨(こだいすずめずし)鮨萬」と、大手スーパー「イオン」との間で繰り広げられた。

 先ず、一審の大阪地裁。
「招福巻」の使用差し止めと使用料相当額など51万円の支払いを、イオンに命じた。
しかし、大阪高裁の控訴審。
ここでは、控訴人であるイオンが逆転勝訴。
すし店側の請求は棄却され、大阪地裁での一審判決が取り消された。

 大阪高裁は、
「すし店側が商標使用について警告し始めたのは、2007年以降。
一方、『招福巻』は、遅くとも2005年以降は、その名称の巻きずしが全国のスーパーで販売されるなどで普通名称となっており、商標権の効力が及ばない」
と結論づけた。
大阪地裁が、
「全国のスーパーや、すし店等において、節分用の巻きずしの名称として「招福巻」を含む商品名が用いられている例が多数あるからといって、このことから直ちに、「招福巻」が節分用の巻きずしの普通名称になったものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない」
としたのに対して、全く逆の結論だ。


 本件の主な経緯は下記の通り。
商標権者の当すし店は、イオンに対して警告を行い、一旦は「招福巻」を使用した巻きずしを販売しないなどの確約を得た(?)。
にもかかわらず、販売を再開(?)され、仕方なく地裁に提訴。
地裁では、当すし店の主張が通ったものの、今回の高裁では逆転敗訴。
イオンとしては、単なる「福を招く巻きずし」の意味合いで使用したとの主張が通り、ほっと一息。
一方、当すし店としては、さぞ無念であり、同時に、商標権管理の難しさを思い知ったことであろう。


 そう、商標権管理は容易なことではない。

 今から、40年ほど前のこと。
ゼロックス複写機が国内で普及し始めた頃、「ゼロックス(XEROX)」商標に一大危機が訪れた。
例えば、企業内では上司が部下に「コレ、ゼロックスしてくれ」といった具合に、この商標が単なる「コピー」という意味で使われ始めたのだ。
その内、あたかも普通名称のごとく辞書にまで掲載され、更に、「ゼロる」という造語まで登場した。
これに危機感を覚えた富士ゼロックス。大々的なキャンペーンを張った。
「『ゼロックス(XEROX)』は登録商標です!」
マスメディアを使って、徹底的な宣伝活動を展開した。
その結果、かろうじて、「ゼロックス(XEROX)」の普通名称化が防げたのである。


 当すし店としては、「警告」だけでなく、後々「普通名称」と認定されないよう、富士ゼロックスと同様の宣伝活動を行っておけばよかった。
今となっては、最早、形勢逆転はかなり困難。
今後どう対応していくのか。
若干、同情の念も覚えながら、注目したい。


【本件の主な経緯】

・1988年3月30日、当すし店が節分に丸かじりする縁起物の巻きずし「招福巻」を商標登録。
・1999年2月頃、スーパーマーケット・イズミヤの「2月3日は節分」チラシに「節分招福巻1本380円2本750円」を記載し販売。
・2003年2月頃、スーパーマーケット・ニッショーの「節分特集」チラシに「太巻き招福巻2本860円」を記載し販売。
・2004年2月3日、ダイエーの「本日節分」チラシに「招福巻1本398円」を記載し販売。
・2005年2月頃、阪急オアシスの「2月3日は節分」チラシに「招福巻1本580円」を記載し販売。
・2005年2月頃、KOHYO(コーヨー)の「節分2/3木限り」チラシに「招福巻1本660円」を記載し販売。
・2005年2月3日、ダイエーの「本日2/3木は節分」チラシに「招福巻1本398円」を記載し販売。
・2006年1月〜2月、イオンが運営するスーパーマーケット「ジャスコ」において節分用の巻きずしに「十二単の招福巻」との標章を付し販売。
・2006年2月頃、スーパーマーケット・ニッショーの「2/3は節分」チラシに「招福巻1本450円」を記載し販売。
・2006年2月頃、大丸ピーコックに「招福巻」の名称の巻きずしを販売。
・2006年2月頃、スーパーマーケット・さとうの「2月3日(金)は節分。」チラシに「招福巻1本580円」を記載し販売。
・2006年2月頃、スーパーマーケット・サボイにて「招福巻」の名称の巻きずしを販売。
・2006年2月3日、スーパーマーケット・平和堂の「本日3日(金)は節分」チラシに「招福巻1本398円」を記載し販売。
・2007年1月〜2月、「ジャスコ」において節分用の巻きずしに「十二単の招福巻」との標章を付し販売。
・2007年2月頃、スーパーマーケット・サボイの「春を招き,福を呼ぶ『節分』」チラシに「招福巻寿司1本698円」を記載し販売。
・2007年2月頃、サンシャインにて「招福巻」あるいは「招福巻き」の名称の巻きずしを販売。
・2007年2月頃、小僧寿しの「節分の日」チラシに「招福巻1本580円」を記載し販売。
・2007年2月頃、スーパーマーケット・さとうの「2月3日(土)は節分」チラシに「招福巻寿司1本580円」を記載し販売。
・2007年2月3日、マツヤスーパーの「今日は節分」チラシに「開運招福巻698円」を記載し販売。
・2007年2月頃、当すし店はイオンをはじめサボイ、広越、柿の葉すし本舗たなか等、節分用巻きずしに「招福巻」を使用する業者に対して警告。これらの会社から今後「招福巻」を使用した巻きずしを販売しないなどの確約を得る。
・2007年6月、当すし店がイオンを相手取り大阪地裁に提訴。
・2008年3月18日、「招福巻」の更新登録。
・2008年10月2日、大阪地裁が判決を言渡す。
・2008年、イオンが大阪高裁に控訴。
・2010年1月22日、大阪高裁が判決を言渡す。

【商標】 招福巻
【登録番号】 第2033007号
【登録日】 昭和63年(1988)3月30日
【公告番号】 昭62−56821
【公告日】 昭和62年(1987)8月6日
【出願番号】 商願昭59−8079
【出願日】 昭和59年(1984)1月31日
【先願権発生日】 昭和59年(1984)1月31日
【更新申請日】 平成20年(2008)3月7日
【更新登録日】 平成20年(2008)3月18日
【存続期間満了日】 平成30年(2018)3月30日


≪関連サイト≫
大阪高裁、「招福巻」は普通名称 イオンが逆転勝訴
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20100123AT5C2201I22012010.html
平成19年(ワ)第7660号商標権侵害差止等請求事件
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081003115544.pdf
平成20年(ネ)第2836号商標権侵害差止等請求控訴事件
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100129134305.pdf

2010年2月 山田康男
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